東京高等裁判所 昭和57年(ラ)53号 決定 1982年10月08日
抗告人 甲野花子
相手方 甲野太郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消し、本件を千葉家庭裁判所に差し戻す、との裁判を求める。」というのであり、その理由は、
1 原審においては、相手方の言い分のみを取り上げ、事実も意味あいも異なるのに抗告人に充分な説明と反論の機会を与えなかったから、原審判は不当である。
2 原審判は、抗告人と相手方の婚姻が既に破綻しているとするが、相手方は昭和五一年五月一九日に家を出て相手方の姉宅に寄寓し、抗告人が相手方と話合いをしようにも相手方の姉が仲に入るためできなかったのであって、抗告人は抗告人の欠点とするところや、改めるべき点等を話し合えば、もとの円満な夫婦生活ができると信じて疑わない。
3 原審判には数々の事実誤認がある。というにある。
そこで検討するに記録によれば、原審判は、抗告人の夫で昭和五一年五月一九日以来抗告人と別居している相手方が抗告人と同居すべきことの審判を求める旨の抗告人の申立てを棄却したものであるが、抗告人が右申立てをした昭和五二年一二月七日以前に、原裁判所において、相手方の昭和五一年六月三日申立てによる同年(家イ)第二八七号夫婦関係調整調停事件が昭和五二年二月二八日調停不成立で終結していたほか、本件申立て当時、抗告人の昭和五一年七月二六日申立てによる同年(家イ)第三九〇号婚姻費用分担調停事件から移行した昭和五二年(家)第一〇一〇号審判事件が係属中であったところ、原裁判所は、右両事件及び本件記録中の家庭裁判所調査官の抗告との面接(通算一七回)に基づく調査報告書等により、抗告人の言い分を参酌して判断したことが明らかであるから、抗告人に充分な説明と反論の機会を与えなかったとの抗告人の主張は理由がないといわなければならない。そして当裁判所が本件記録及び前掲各事件記録によって認定した事実も、原審判の認定事実(原審判一枚目裏九行目から三枚目表一二行目まで)と同一であるから、これを引用する(但し、原審判一枚目裏一〇行目の「一月一四日」を「一二月一四日」と訂正する。)。
右認定事実によれば、抗告人と相手方は性格の相違が著しく、相手方は抗告人の前記認定の特殊な性格に由来する言動に堪えきれず別居を余儀なくされたものであるのに、抗告人は右別居の真の原因について認識を欠いていて、ただ相手方との同居を求めるのみであって、抗告人と相手方の夫婦関係は既にその円満な継続を期待することができず、仮に相手方に同居を命じてみたところで再び相手方をして別居を繰り返えさせるであろうと考えられ、結局相手方が申立人との同居を拒むのは無理からぬ事情があるというべきであるから、かかる事情のもとにおいては抗告人の相手方に対する同居請求は許されないと解するのが相当である。
よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 蕪山厳 裁判官 真榮田哲 塩谷雄)